前回、カードゲーム「レシピ」を手作りした話をしましたが、これが簡単・安価でしかも大好評だったので、ついママも気を良くし「もうひとつ何かつくったげようか。なんでもいいよ」と言ったのが始まりでした。大乗り気の娘は、なんという熱意でしょう、まだ漢字もろくに読めない5歳児のくせに、何十ページもある「すごろくや」の商品紹介ページをいちいち熟読し、「これがいい」と選んできたのが、この「ねことねずみの大レース」でした。
ああ、しまった・・というところです。同じゲームでも、「レシピ」のようなカードゲームなら作るのが簡単ですが、専用のこまを使うボードゲームは話が別、中でもこの「ねことねずみ」は、ネコ1匹にネズミ16匹、おまけに多数のチーズまで登場するので、かなり面倒くさいのです。それでも「なんでもつくったる」と大言壮語してしまった以上、がんばって作りました。
- 製作費用:910円
- 所要時間:1〜2週間
正規品は5000円前後しますので、出費はかなり抑えられていると思います。作りやすくするために、完全コピーではなくデザインを変更したことで、かえって面白い味も出ているかなと、自画自賛ですがお気に入りの作品です。
そもそも「ねことねずみの大レース」とは
2003年にドイツのキッズゲーム大賞を受賞したという、ボードゲームの名作です。基本はサイコロを転がして、出た目の数だけ持ちごまを進ませるすごろくゲームですが、このゲームの持ちごまは1人につきネズミ4匹。サイコロを投げるたびに、どのネズミを動かすかは自分で決めることができます。
ネズミたちは最初、ボード中央の「巣」の中にいます。それが伝説のチーズ王国を夢見て、安逸な暮らしを捨て冒険の旅に出るわけです。ボード上をぐるりと一周すればチーズ王国にたどり着いて、高得点のチーズをゲットすることができますが、ボード上にはネコが待ち構えていて、しかるべきルールに則って着々と歩を進めてきます。ネコに追いつかれたネズミごまは、食べられてしまって消えます。途中4箇所に「避難所」が設けてあって、ネコに食べられそうになったネズミは逃げ込んで、低得点ながらチーズをゲットすることもできますが、一度逃げ込んだネズミは外に出られません。つまりチーズ王国をめざすマラソンからは離脱することになります。全員の持ちごまがネコに食べられるか、避難所にスタックされるか、あるいはチーズ王国にたどり着くかしたら、試合終了となります。その時点で、ゲットしたチーズの得点を足し合わせて、順位を決めます。
これは、4匹のネズミの動かし方に性格が出て面白いゲームです。他の3匹を置いてけぼりにして、先頭のネズミをとにかくチーズ王国へ進める人もいれば、一匹たりともネコに食べられないように気を配って、4匹全員をちょっとずつ進める人もいます。特に子どもは、自分のネズミが食べられてしまうと悲嘆にくれるので、ゲームに勝つことよりネズミの安全確保に必死になったりします。いずれにせよ、1度サイコロを投げるごとに、「どのネズミを動かすか」「先へ歩を進めるか、安全な避難所に逃げ込むか」を考えることになるので、子どもも大人も大いに脳トレになります。
正規のお値段5000円を高いと思うか安いと思うかですが、私は(自分では買わないのになんですが)値段相応の価値はあると感じます。こまはすべて木製で、ネコもネズミも好感をもてる顔立ちをしており、ドイツ製と聞くとなるほどと頷けます。逆にこれと同じクオリティのものを安価に手作りするのは無理と判断しました。そこでゲームのストーリーとルールは踏襲し、手作りのレベルに見合うようデザインは大幅に変更することにしました。
ボードとサイコロを用意する
プレイするには、以下の5種類のものが必要です。
- ネコやネズミたちが動くボード 1枚
- ネコごま 1個
- ネズミごま 4匹 x 4人分で16個
- 各避難所とチーズ王国に置いてあるチーズ 4個 x 5箇所で20個
- 専用サイコロ 1個
ボードには、ダイソーの「二つ折り色紙」を使用しました。これは広げた時の大きさがプレイするのにちょうど良く、しかも二つに折れるので収納時はコンパクト、しっかりした厚みと固さがあって、ボードゲームの土台として最適でした。
正規品のボードは、カラフルで可愛い絵柄に満ちていますが、とても真似できないので、逆に金ペン1本でシンプルに仕上げました。これはこれで、シックで気に入っています。
次にサイコロですが、本物の「ねことねずみ」用のサイコロは少し特殊です。通常のサイコロでいう1の目と6の目のところにネコの絵が描いてあって、その目が出たら「ネズミは1進み、ネコも1進む」というルールがあります。当初この「ネコの目」が2面あることを知らなくて、「1の目が出たらネズミとネコがそれぞれ1進む」でいいのだと思っていました。そこで普通のサイコロでプレイして、1の目が出た時だけネコを動かしていたのですが、それだと全然ゲームが面白くなりません。ネズミの進行速度に対してネコが遅すぎるのです。本物の専用サイコロは、1の目だけ出やすいように特殊な仕掛けでもしてあるのかしらと、ずいぶん首をかしげましたが、商品紹介ページや各種レビューによくよく目を通して、ようやく6の目がないのだと気がつきました。気づいてしまえば、普通のサイコロでも問題なくプレイできます。「6の目が出たときは、ネズミが6進むのではなくて、ネズミとネコがそれぞれ1進む」と覚えておけばよいのです。小さな子どもにわかりにくい場合は、1の目と6の目にネコのシールでも貼ったらよいかと思います。
ネズミとネコが絶妙なスピードで動くよう、サイコロだけでなくボード上にもさまざまな工夫がしてあります。プレイヤーの人数に応じて最適なネコのスタート地点が指定されていたり、1周目と2周目でネコの歩幅がちがったり、こうした細部を取りこぼすと、あっという間にゲームが面白くなくなります。さすがは傑作と謳われるだけあって、よく考え抜かれているのですね。開発者に敬意をはらって、ここは忠実に模倣します。
チーズはいろいろな種類でおもしろく
一番面倒なのは、20個も作らなければならないチーズです。正規品では、ネズミの巣に一番近い避難所には1ピースのチーズを置き、その先の避難所には2ピース、3ピース、4ピースのチーズを、最後のチーズ王国には6ピースのホールチーズを置くことになっています。これだと、最後に得点を計算するときに、チーズのピース数を数えればよいわけですね。
けれど全く同じ大きさのチーズのピースを量産するというのは、手作りでは至難の技です。粘土を捏ねて作るのが一番安上がりですが、丸く捏ねるまではよくても、それを6等分にカットしたら絶対に歪んで不揃いになります。ミニチュア小物を作るのが趣味な方などは、よくYouTubeなどでも非常に上手にカットしたり成形したりなさっていますが、私の技術ではアラが目立つ、とやる前から分かっていたので、そもそもチーズのピースを作ることをあきらめました。
代わりにどうしたかというと、各場所にいろいろな種類のチーズを置くことにしたのです。たとえば子どもの好きなキャンディチーズ。これは本物のキャンディチーズを食べた後の包み紙を洗って取っておいて、ベージュ色のフェルトの端切れを詰めました。
子どもの好きなチーズといえば、もうひとつはベビーチーズ。これはスポンジを四角く切って銀色の折り紙で包み、小さく印刷したベビーチーズのパッケージを貼っています。材料費ゼロなのに、なかなかリアルな出来栄えです。
ここから先は、ダイソーで購入した樹脂粘土を使いました。手芸用品売り場にある30gの小さなパックしか見当たらなかったのですが、たしかパステルイエローとレッドの2色で足りました。これで作ったのが、ブルーチーズと、エメンタリーチーズと、エダムチーズです。
ブルーチーズは、パステルイエローの粘土に、緑色の布地から出た糸くずを混ぜ込んで丸く捏ねた上で、半分にカットしています。糸の繊維があまりに細かったもので、糸くずを混ぜ込んだというよりは灰色に着色したような具合になっていますが、まあ多少はブルーチーズの雰囲気が出たのではないでしょうか。
エメンタリーチーズは、少し黄色味を濃くするために絵の具を足して丸く捏ね、4つにカットしてから、マイナスドライバーを押し当てて穴をあけています。切ったりいじったりすると不器用さが目立つので避けたかったのですが、トムとジェリーに出てくるような、いかにもチーズ!という感じの穴あきチーズをひとつは作りたかったので、なんとかかんとか頑張りました。
エダムチーズは一番簡単で、レッドの樹脂粘土を丸く捏ね、上に小さく印刷したエダムチーズのパッケージを貼っただけです。ベビーチーズもそうですが、この小さく印刷した本物のパッケージがあると急にリアル感が増しますね。丸く成形する際には、セロハンテープの芯の中に詰めると、大きさがぴったりできれいに仕上がりました。
このように場所ごとにちがう種類のチーズを置いたことで、ボード上が華やかになりましたし、子どもにとっては、本物そっくりのミニチュアチーズコレクションが、手に取るだけでちょっと楽しいみたいです。ただこのようにすると、最後にゲームの合計得点がわかりづらくなるので、各チーズの裏にそのチーズが何点相当か書いたシールを貼りました。ゲームが終わったらチーズをひっくり返して、「1たす2たす4たす6だから・・えーと13点だ」などと得点を計算することになります。これは子どもの暗算練習に最適です。
16匹のネズミの作り方
チーズを作り終えたら、次はネズミという難関が待っています。1人4匹、4人でプレイできるようにするなら計16匹必要で、誰のこまか分かるように体のどこかを色違いにしなければなりません。あまり安っぽくてペラペラ吹き飛ぶのも困りますが、数が多いので1匹ずつの材料費が高いと馬鹿にならない出費になり、なんのために手作りするのか分からなくなってしまいます。そこで我が家では、ネズミのボディとしてこれを使うことにしました。
そう、椅子の足が床を傷つけないように貼る丸いフェルトです。直径2cmのものですと30枚入りで110円でしたので、ネズミ1匹につき2枚使って使い切りました(16匹つくるにはわずかに足りないので、その分だけ手持ちのフェルトを切って代用しています)。
耳は、4色のフェルトの端切れを丸く切って縫いつけました。立体的に突き出た感じにしたかったので、ボンドで貼り付けるのではなく針と糸を使いましたが、ボディの裏に両面テープがついているので、針がべたべたして少々面倒でした。
鼻は、チーズを作るときに余った樹脂粘土で作りました。ひげは何か別の用途で買って余っていた硬めの金糸、しっぽはペーパークリップを切ったものです。このペーパークリップのしっぽは、やや危ないチョイスだったかもしれません。切った断面はやすりで念入りにバリをとったとはいえ、床に散らばったのを踏んだりしたらやはり痛いと思います。もちろん作るとき安全性も考えて、もっと柔らかい針金やモールなども使ってみたのですが、取れやすかったりぐにゃぐにゃになったりで廃案となり、5歳なら大丈夫だろうとペーパークリップ案を採用したのでした。お子さんがもっと小さかったり、ばらまいて遊ぶくせがあるような場合は(うちもやらかしますが)、ただの毛糸などの方がよいかもしれません。ただ、くるりと上を向いた固いしっぽがあると、こまを動かすときの持ち手となって、そういう意味では便利です。
ネコは買いました
残るはネコ1匹ですが、さすがの手作り狂ママも20個のチーズと16匹のネズミで力尽き、これはメルカリで適当なネコの置き物を探し出してきて買いました。こんなピッタリサイズのかわいいネコを出品してくださった方に感謝です。360円でした。
本家のネコがニマッと舌なめずりして、いかにも「食べちゃるぞ」という顔をしているのに対し、うちのネコはポヤッとしてネズミを狙っているようには見えませんが・・そこがまた娘のお気に召して、「このネコはね、本当はネズミじゃなくてチーズが好きなんだよ」とゲーム途中にちょくちょくチーズ王国に寄り道させては、エダムチーズを食べさせてやっています(そのせいでしばしば、ネコが本当はどこにいたのか分からなくなります)。
ちなみにゲームをしていない時は、ネコとネズミとチーズをまとめてセリアで買った丸箱に収納しています。なんだかチーズっぽい箱でちょうどよいかなと。箱の中でネコとネズミたち、仲良く各種チーズを分け合って食べているのかもしれません。制作費用はこの収納箱110円も含めて、ボード110円、チーズ220円、ネズミ110円、ネコ360円で、910円となっています。
総合評価:出来栄えとオススメ度
手作りの「ねことねずみの大レース」、自己評価はこんな感じです。
子ども受け:
耐久性 :
見栄え :
本物には到底およびませんが、カラフルで楽しい作品にできたのではないかと思います。ただ、見栄えの良さの半分は単なる作り手の自己満足でして、実のところ子どもはここまで作り込まなくても、十分楽しんでこのゲームをプレイすることができます。子どもの「見立てる」力はすごいもので、単なるボタンやどんぐりでも十分ネズミに見えるし、新ルルA錠の空きびんもネコとして可愛がることができるのです。
ただ残りの半分は、実際の使いやすさや耐久性に関わっています。こまがぺらぺらの紙でできていると、誰かの鼻息ひとつで吹き飛んでしまいますし、特にこのゲームの場合、こまの大きさとボードの大きさが適切でないと、ネズミがひしめきあってどこのマスにいるのか分からなくなります。そういう意味では、苦労して作った甲斐はあったかなと。プレイ中ストレスもありませんし、今までのところ壊れたパーツもありません。そんなわけで、非常に手間はかかりましたが、実用性、耐久性、見栄えともに満点の一品です。20個のチーズと16匹のネズミをつくる持久力がある!という方は、ぜひ試してみてください。