赤ちゃんは、ずり這いやハイハイ、つかまり立ちやヨチヨチ歩きを始めると、どんどん目が離せなくなっていきます。いざ赤ちゃんが自由に動き回るとなると、触らせてはいけないものが部屋中なにかとあるもので、ベビーサークルを購入して、赤ちゃんが安全に遊べるスペースを確保するご家庭も多いのではないでしょうか。うちも、ベビーサークルの面積と部屋全体の面積とがあまり変わらないほど狭い住まいなのですが、やはりあった方が助かるので買いました。カトージの木製扉付きで、今のところ赤ちゃんがつかまり立ちしても安定感がありますし、見た目もシンプルで高評価です。
これで手を伸ばされては困る大半のものから遠ざけておけるようになりましたが、掃き出し窓の近くに置かざるを得なかったので、サッシにだけは触り放題でした。窓周りは、どうしても土埃が吹き込んでくるので汚れがちです。ですが「あ、そこあんまり綺麗じゃないからナイナイよ」なんて言うと、誰に似たんでしょう、悪戯心にぱっと顔を輝かせて、大ニコニコでわざわざ手を伸ばしに行くようになりました。こちらの手が離せない時など、ヨチヨチと窓際に行ってサッシに指を突っ込みながら「ママ、ワタシ触っちゃうよ。いいのかな?」という顔でこちらを振り返る始末。うーん、可愛いけれどやっぱりストレスです。そこで、窓に面した一面だけ、下に板を取り付けて手を伸ばせないようにすることにしました。
- 製作費用:1,510円
- 所要時間:4日
板を取り付けるだけなら数百円で済んだのですが、どうせならばと構想がわき、それを実現するのに思った以上の出費となりました。電動ドリルによる穴あけ、ペンキ塗りなど、まとまって時間がとれる土日でないとできない作業も多く、正味の作業日数は4日でも、着手から完成まで数週間かかりました。でも、大人の都合で赤ちゃんを閉じ込めるただの「塀」ではなく、赤ちゃんが楽しめる知育ボードになってよかったと思います。窓辺の雰囲気も明るくなりました。以来サッシの掃除はさぼりっぱなしですが・・
ベビーサークルに板を取り付ける
ベビーサークルに何かを取り付けようと思ったら、それなりにしっかりした素材を選んで、しっかり固定する必要があります。板が割れやすかったり、外れやすかったりしては、赤ちゃんが手をかけた時に危険だからです。実を言うと最初ケチってスチレンボードで済まそうとして失敗しました。二人目なのだから事前に気づけばよかったのですが、赤ちゃんの腕力はなかなか馬鹿にしたものではありません。取り付けて数日のうちに、メリッバキッとチビ怪獣の攻撃に敗れました。
最終的に使用したのは、セリアのMDFボードです。これは、非常に硬くて重くてしっかりしていそうな反面、本質的には段ボールに近いといいますか、水濡れにかなり弱いので(購入直後うっかりチビ怪獣に角をかじられて判明しました)、赤ちゃん用品に最適とは思いませんが、今回は柵の外に取り付けるので、丸かじりの心配はないだろうと判断して採用しました。
板を柵に取り付けるにあたっては、別のおもちゃを手作りする際に購入したダイソーの「繰り返し使える結束バンド」が役に立ちました。MDFボードの四隅に穴をあけて、結束バンドで柵に結わえつければ、かなりしっかり止まります。さらにこの結束バンドは、切らずに緩めて外すことができるので、一度仮止めして下絵を描いてから、外して穴をあけたり色を塗ったりしたい今回の用途にぴったりでした。
テーマは「触って楽しむ ごぶごぶ ごぼごぼ」
「ごぶごぶ ごぼごぼ」という絵本をご存知の方は、冒頭の写真を見てお気づきかもしれませんが、板に施した加工はこの絵本の挿絵の再現です。これは、グラフィックデザイナーとして活躍し、造本作家としても世界的な評価を受けている駒形克己さんの手がけた赤ちゃん絵本ですが、どこがそんなに特別なのか、大人の目にはわかりません。全編ただひたすら「丸」が描いてあります。赤、黄色、青、水色の丸と、「ぷ ぷ ぷ」とか「ぷわ ぷわ」というオノマトペのみ。ですが、この本が赤ちゃんにもたらす効果たるや、まさに魔法です。1頁目を開いて「ぷーん ぷく」と言ったとたんに、どんな号泣の真っ最中でもピタリと泣き止み、「さわ さわ さわ しーー」で終わるまで釘付けです。
うちの次女は生後4ヶ月の頃この本に出会って以来、数百回読んだのではないでしょうか、とうとう家族全員が、ごぶごぶごぼごぼ教信者のように「ぷ〜ん ぷく!ぷく ぷく ぷくん!ぷ ぷ ぷ ぷ ぷ ぷ、ど ど どぉ〜ん」という謎のお経をそらんじるほどになりました。
ですがあまりに好きすぎて、成長とともに困ったことになりました。この本を見ると奪おうとして手を伸ばすので読めないのです。そもそも赤ちゃんが触って楽しめるように厚手の紙でできていて、指を入れて遊べる穴までついているので、触るのはかまわないのですが、触るだけでは飽き足らず本を奪い取って抱きしめ振り回し、丸ごと食べようとでもいうように角を口に突っ込むので、あぶなくて見ていられません。かといって取り上げると大号泣となるので、この本を出すと逆に泣かれるということであまり出さなくなってしまいました。こんなに好きなのにかわいそうだ、心ゆくまでいじり倒せる「ごぶごぶ ごぼごぼ」を与えてやれないだろうかと考えて、板に描いてやることにしました。
ホールソーで穴をあける
この着想には、めずらしく主人が乗り気になりました。普段DIYはママの担当で、パパは我関せずなのですが、今回趣旨を説明して、できれば絵本と同じように板を丸くくりぬきたいのだがと相談したところ、「とりあえず電動ドリルでやってみるか」と下絵を描いた板を持ち出し、「ダメだ、もっと綺麗にあけたい。ホールソー買お」と言い出しました。ホールソーというのは、電動ドリルにとりつけて板を丸くくりぬくための、円形状の糸ノコのようなものです。
私は極力「専用機材」の類を買いません。ハンドメイドをしていると便利な器具がいろいろ欲しくなりますが、その誘惑に負けていると物が増える一方だからです。しかし今回に限っては買う気になりました。何十分もドリル1本で頑張ってもボコボコの穴しかあきませんが、ホールソーさえあればきれいな穴が一瞬であきます。それに普段は面倒くさがりやの主人が、道具を買ってまで穴をあけてやりたいというのですから、このやる気は大事にしたいところです。そこでホールソーを注文して、穴あけは主人に一任しました。側で見ていても気持ちがいいほど、きれいな丸い穴が次々あきました。
板のペンキ塗りは、主人の監督・補佐のもと上の子がやりました。使ったのはダイソーの防カビ水性塗料です。4枚のMDFボードを塗るのに、50mlボトルを2本使い切りました。欲を言うならせっかくの防カビ塗料なので、赤ちゃんがよく触る穴のフチや板の上面あたり、もうちょっとしっかり塗ってほしかったですが・・まあ大事なのは、家族みんなが赤ちゃんのために心こめて作ったということです。じょうずじょうず、カビないことを祈ります。
異素材ミックスで楽しく知育
セロハンで半透明に
くりぬいた穴の裏には色紙を貼る予定でしたが、ここでも主人がアイディアを出して「セロハンを貼って光を通したら面白いんじゃない?」と言い出しました。ちょうど窓辺だしせっかく穴をあけたのですから、これは名案です。セロハンだけでは破れてしまうので、ダイソーで半透明のPPシートを買ってきて貼り合わせました。向こう側が見えるほどの透明度はありませんが、ステンドグラスのようにカラフルな光が射しておもしろい仕上がりになりました。
手触りのちがいを楽しむ
全部の穴をセロハンにはせず、色紙を貼った穴やセロハンを貼った穴、それから柔らかなフリース生地を貼ってスポンジを詰め、触るとモコモコした手触りが楽しめる穴もつくりました。一番大きな丸は、ホールソーの最大半径を超えていたので、ここはくりぬかずに赤いフェルトを丸く切って貼ってみました。
布の手触りが好評だろうと思いきや、意外とセロハンの穴を一番いじっています。手触りを楽しむというよりは、どうも破壊本能の命ずるままに一番壊れやすそうな箇所をねらってカリカリ爪を立てているような気がしますが・・・ありがたいことにまだ壊れていないので、好きにさせています。
手持ちのおもちゃを組み合わせる
また、何も貼らない穴もいくつか残して、指をつっこんで遊べるようにしました。そのうちのひとつには、ちょうどIKEAの円形積み木をはめることもできます。まだ自分ではめるほど賢くありませんが、ここに積み木をはめておくと必ず取りに行きます。
さらに、板の裏側に何箇所か強力磁石を貼り付けて、マグネットつきのおもちゃがくっつくようにしました。これも大人目線ではおもしろいと思ったのですが、赤ちゃんはさほど興味を示しませんでした。まだ磁石の不思議がわからないので、ここにおもちゃがくっついていても、帽子かけに帽子がかかっているのと同様、ありきたりの光景と思うようです。もう少し月齢があがったらまた違うかもしれません。
完成後の顛末 ー ごぶごぶ ごぼごぼではない?
そういうわけで、思いつくかぎりの細工をほどこした、手作り知育ボードが完成しました。「ごぶごぶ ごぼごぼ」を愛してやまない次女への家族みんなからのプレゼント、まさに手作りごぶごぶごぼごぼワールドです。
ところが、です。たしかに穴に指を入れて遊んだり、セロハンやフェルトをカリカリいじったり、楽しんでくれてはいるのですが、このボードが絵本「ごぶごぶ ごぼごぼ」の再現だとは認識していないらしいのです。「ほら、ここが 『ど ど どーん』だよ。こっちが『ぷ ぷ ぷ ぷわ ぷわ ぷわ ぷわ』」と指差してやってもきょとんとして、絵本を読んでやった時のあの陶酔ぶりはうかがえません。そこそこ忠実に再現したつもりなのですが・・丸のサイズ比や背景の色までふくめて完璧に同じでないと、ごぶごぶ ごぼごぼの魔法は成立しないということでしょうか。それとも「ぷーん ぷく」からじゃないと、謎の物語が始まらないのでしょうか。ただの「丸」に見えてただの「丸」ではない、この絵本の不思議さ特異さに、あらためて脱帽した次第でした。
手作りボードの方は、そういう意味では「ただの丸」どまりですが、知育玩具として十分機能はしています。また、これのおかげでつかまり立ちが急激にうまくなりました。高さ65cmの柵の上部に手をかけるのは、赤ちゃんにとってなかなか難しいですが、この板は高さ30cmなので、体を起こす練習にちょうどよかったようです。むしろ最初のうちは、せっかくあけた穴そっちのけで、つかまり立ちの練習ボードとしてせっせと活用していました。作り手の思惑どおりだったり、そうではなかったりいろいろですが、総合的に作った甲斐はあったと言えそうです。
ご参考までに、今回の製作費用の内訳を記します。ホールソーはホームセンターのポイントを使って買ったり、カラーセロハンやフェルトなど自宅にあるものは買わずに済ませたりしているので、この金額で同じものが作れるというわけではありませんが、およその目安としてご覧ください。
ホールソー | 530円 |
MDFボード | 440円 |
白色水性塗料 | 220円 |
青色水性塗料 | 100円 |
ペイントローラー | 110円 |
PPシート | 110円 |
総額 | 1,510円 |
最後に:赤ちゃん用品を手作りするときの注意
ここまでベビーサークルに取り付ける知育ボードの話をしてきましたが、私は実は赤ちゃんが直接いじるものはあまり手作りしません。安全性の確保が難しいからです。昨日とどかなかった場所に今日手がとどき、昨日できなかったことが今日できるようになるのが赤ちゃんですから、下手なものを与えたら何が起きるかわかりません。今回の知育ボードも、仮止めしてみて強度をたしかめ、つかまり立ちしても大丈夫か、指をはさむ隙間や尖った角が出ていないか、裏側に手を伸ばしても危険はないか、ペンキは落ちないか、できる限り思い巡らせてからGOサインを出して、今のところ事故なく使っていますが、同じ材料でも板の止め方ひとつで怪我にいたることはありえます。これは既製品でも同じことですので、手作りが悪くて既製品なら安心というわけではありませんが、手作りの場合とくに、責任が100パーセント自分にあることは意識すべきだと思います。そのうえで、赤ちゃんを喜ばそうと家族が知恵を出し合い、注意深く心こめた作品を作り上げるとしたら、それはとても良い記念ではないでしょうか。