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動画をやめて映画館ごっこ 〜YouTube依存を治す親子の映画習慣〜

映画館ごっこ その他

皆さんのお宅では、子どもにテレビやYouTubeの動画を見させていますか。一日何分、あるいは何時間許していますか。ああいうのは一度始めてしまうと、やめるのが難しいですね。子どもが中毒になるというのもありますが、どちらかというと親がその便利さから抜け出せなくなります。仕事で、引越しで、下の子の世話で、目の回るほど忙しい時、「ねえ遊んでよ。遊ぼうよお」という子どもの泣き声がぴたりと止んで、画面の前でおとなしくなってくれるのですから、こんなに助かることはありません。「もうやめなさいよ」と言いつつ、もっと見させておきたいのは親の方だったりします。

うちの子もYouTubeを相当見ていました。小さい頃はCocomelonとかPeppa Pigだったのですが、そのうちキッズYouTuberのチャンネルにハマって、自分で関連動画をクリックしてエンドレスに見るようになりました。そうしたYouTuberの作品が悪いとは思わないのですが、何時間も幼い頭をどっぷり浸け込むには、やはり内容が空疎であるように思います。1回30分とか、動画を3つまでとか、ルールは作るのですが、見終わったところで私の手が空かずかまってやれない状況だと、結局また動画の世界に舞い戻るのを親も黙認という具合で、よくないなあと思いつつ、YouTube漬けが続いていました。

しかし終わりは突然やってきました。ある日、今日はもうここまでと動画の続きを禁じたところ、すさまじいヒステリーを起こしたのです。事ここに至るにはそれなりの事情があり、私の宣告もかなり強引で、娘ばかりが悪かったとは言い切れないのですが、とにかくどうしても見させてもらえないと分かると、泣き叫んで地団駄を踏み、下の子をお風呂に入れていた私のもとへ押しかけて、風呂場の扉をガンガンと叩きながら、動画を見させろ動画を見させろと野獣のように吠え猛る行為におよびました。かわいそうなのは下の子で、怯えきって泣きじゃくるので、泣き声やら吠え声やらわんわんと反響してそれはひどい騒ぎとなり、とうとう私が娘を風呂場に引っ張り込んで、頭を冷やせとシャワーをぶっかける終幕を迎えました。そして一緒に風呂に入って落ち着くのを待ち、普通に話ができるようになった時、もう動画は一切なしにしようときっぱり宣告しました。娘もやりすぎたという自覚があったのでしょう、意外とすんなりこれを受け入れました。

すんなり受け入れたのは、娘も実は動画に疲れていたためかもしれません。見ても見ても終わりのないYouTubeの動画というのは、実は無間地獄のようなものなのではないかと思うことがあります。そして、そこに長いこと娘を浸からせていたことへの罪悪感と、唐突に娘の楽しみを奪ったことへの贖罪から、「そのかわり」と私は話を続けました。「週に1回、ママと映画を見るっていうのはどう?ちゃんとチケットとスナックを用意してさ、映画館ごっこするっていうのは?」我が家の映画習慣はこうして始まりました。

なぜ動画ではなくて映画か

なぜ動画を禁じて映画をOKしたかというと、映画には始まりと終わりがあるからです。本でも舞台でも映画でも、ひとつの完成された作品は、「むかしむかしあるところに」で私たちを別世界に連れて行き、「ジ・エンド」で連れ帰ってきてくれます。その体験が大事なんじゃないかと思うのです。10分前後のあたりさわりのない動画は、家のすぐそばの公園のようなもので、気軽に行き来できる居心地良い場所ですが、そこにばかりいると心が飛び方を忘れてしまいます。どうせ同じ何十分か何時間かを費やすなら、ママとネバーランドまで飛んで行こうぜぃ!という気持ちで、長編映画鑑賞をスタートしました。

その特別感を醸し出すために、映画館ごっこを始めてからは、映画をディスクで集め始めました。うちは収納の少ない賃貸住まいなので、それまではできるだけ物を減らすため、オンラインで済むものはオンラインで、パソコンに取り込めるものはCDでもDVDでも取り込んでディスクレスで済ませてきたのですが、「検索すれば好きなだけずらりと出てきて選べるもの。クリックして気に入らなければ他のに替えていいもの」という、それまでの動画と一線を画するために、あえてDVDの購入に踏み切りました。選択的に単発動画を見ることに慣れた娘は、映画を見ていても、好きなところだけ見て嫌いなところを飛ばそうとしますが、なるべくそれはさせずに最初から最後まで見せています。大事にしているのは「特別感」です。

映画館ごっこの小道具たち

最初は、この提案で本当に娘の気を紛らわすことができるか、あれほどハマっていたYouTube動画の代替として機能するかどうか、やや疑問でした。なので、映画そのものより、周辺部分の彩りに力を入れました。わざわざPowerPointでそれらしい映画のチケットを作って印刷し、「一週間ママの出した課題をがんばってクリアしたら、チケットとスナックとドリンクが手に入る」というゲーム性を導入しました。課題は、簡単めなお勉強の問題を一日3問。ぶうぶう言いながらもお菓子とコーラ欲しさに毎日なんとかクリアしていました。今では「お手伝いポイント制」にして、お手伝いしてポイントがたまったら売店でお買い物ごっこができるようにしています。

映画館ごっこ - チケット

下の写真の黒板は、映画館ごっこのために作ったものではありませんが手作りです。キューブボックスの扉にもなっていて便利なので、いずれ別の記事でご紹介したいと思います。これまではもっぱら、娘がひらがなマグネットなど貼って学校ごっこに使っていましたが、映画館ごっこを始めてからは上映予定を書いておくようになりました。雰囲気作りに役立っています。

映画館ごっこ - 黒板

幼稚園〜小学校低学年と楽しめる映画

こうして始まった映画館ごっこですが、実は映画選びにかなり苦戦しました。というのは、うちの子は非常に怖がりな一面があって、少しでも「悪者づら」したキャラクターが出てくる映画は「怖い」と言って見ようとしないのです。これは実に困りました。悪い人間が一人も出てこない映画なんて、ごくごくわずかです。自称プリンセス好きのくせに、この性癖のせいでディズニーのプリンセスアニメも「シンデレラ」以外まだひとつも見たことがありません(なぜかあの継母は怖くないのだそうです)。「世の中は善と悪で成り立っているんだ。悪い人が出てこなきゃ話が進まないじゃないか」と説得しましたが、一向聞く耳をもたず。

そんな中でも娘がハマった映画がいくつかあるので、このブログの本題である「手作り」とは直接関係しませんが、下でご紹介します。子ども向け映画の定番であるジブリやディズニー、ピクサーなどのアニメは、皆さんよくご存知だと思うので省きました。「アニメ以外で何か見せられるものないかな」と思っておられる方にお勧めです。

子ども向けミュージカル「チキ・チキ・バン・バン」

子どもが楽しめる実写のミュージカル映画といえば、「メリー・ポピンズ」(1964年)の方が、最近続編が公開されたり(「メリー・ポピンズ リターンズ」(2018年))、浅田真央選手がエキシビジョンに使用したりして、知名度が高いかもしれません。けれど私としては、同時期に同じテイストで製作された「チキ・チキ・バン・バン」(1968年)をお勧めしたいと思います。個人的にはこちらの方がくせがないように思います。空飛ぶ車チキ・チキ・バン・バンを始めとして、発明家のパパがつくる楽しい発明品の数々、美しいお城のそびえる童話的世界への旅、悪い大人たちの鼻を明かす子どもたちの大作戦など、全編に子どもの心をつかむ夢があふれていて、これ一本でおなかいっぱいになれます。

ネックは少々長すぎることです。2時間半ちかくあります。これは、いくら動画慣れした幼稚園児でも、集中して見続けるのが難しい上映時間と言えるでしょう。できるだけ飛ばさずに全編見させるようにしていると書きましたが、さすがにこの映画に限っては、本筋と関係ないミュージカルナンバーをいくつか飛ばしました。娘はついでに、怖い人さらいが出てくるシーンを飛ばしたかったようですが・・。

ちなみに人さらいを演じているのは、バレエ映画の傑作として名高い「赤い靴」(1948年)を振り付けたバレエダンサー、ロバート・ヘルプマンです。バレエの様式美を感じさせる大仰かつ軽やかな身のこなしの中に、不気味さがにじみ出ていて名演です。

動物が主役の映画「三匹荒野を行く」

悪い人が出てくると嫌なら、動物が主役の映画はどうだ・・といくつか見せましたが、101匹ワンちゃんでさえ泥棒が怖いと言ってダメでした。困ったものです。まったく人間が出てこない映画なんて、バンビくらいしかないのではないでしょうか。しかしこの「三匹荒野を行く」(1963年)は好評で、再上映をせがまれて二度見ました。二匹の犬と一匹の猫が、預けられた先から逃げ出して、我が家を目指して300キロ余の旅をするというストーリーです。

ベイブのように動物が互いに口をきいたりするファンタジーではなく、ドキュメンタリーかと思うほど写実的なタッチで描かれた作品です。カナダの大自然が画面を美しく彩り、主役の三匹も自然体でのびのび振る舞っていて、見ていると心が爽やかになります。困るのは、死んだと思った三匹が無事に森から飛び出してくるラストシーンを見るたびに、ママの涙腺がゆるむことで・・たかがファミリー映画、たかが犬や猫、こんなことで泣けてたまるかと思うのに、目頭がじんとやられまして、「よかったねー」とニコニコの娘の後ろで毎回こっそり鼻をかんでます。

女の子心を満たす映画「オンネリとアンネリのおうち」

大体の上映作品は、自分が過去に見たことのある映画の中から選びましたが、この「オンネリとアンネリのおうち」(2014年)は初視聴でした。ネットであらすじと映画評を見て、これは娘がハマりそうだと確信したので、続編続々編と思い切ってセットで購入しました。案の定、娘はかなり気に入ったようです。再上映希望率は、堂々一位のとなりのトトロに次いで、二位か三位くらいです。

実を言うとママ個人としては、そこまででもないかな・・というのが正直な感想でした。仲良しの女の子ふたりが、自分たちだけのおうちを購入して二人暮らしをはじめる、という原作の設定そのものが素敵なので、もちろん楽しめるのですが、映画としての出来栄えは星3つくらいかなあと。でも肝心なのは娘の心をとらえたことで、あんまり気に入ったようなので原作の小説も買ってやりましたら、まだ未就学児であるのにぐいぐい読破しました。どこまで読めているのか少々怪しいですが、暇があれば本を持ち出してごろんとしながら目を走らせているので、こまかなところは少しずつ咀嚼しているのでしょう。映画を機にこうして世界が広がっていくのは、本当に望ましいことです。

子どもも楽しめる小津安二郎映画「お早よう」

小津安二郎監督といえば日本映画を代表する巨匠のひとりで、重々しい印象をもつ方もあるかもしれませんが、「お早よう」(1959年)は子どもを主人公にした明るい作品です。60年以上前の映画ですから、まだテレビや洗濯機が珍しかったり、今では滅多に使われない言い回しが出てきたりと、時代のギャップに子どもがついていけるか怪しいところだったのですが、娘は一度見てすっかりハマってしまいました。

要は「男の子たちの間でどういうわけか、”おでこを押されたらオナラをプーする” 遊びがはやっている」「主人公の二人兄弟は、テレビが欲しいのだがなかなか買ってもらえず、しょっちゅうブーたれている」という、この2つの要素が楽しいようです。たしかに、いつの時代でも子どもたちの間では馬鹿げた遊びがはやっていて、いつの時代でも子どもは何かを欲しがってはブーブー言うものですね。そういう普遍的な子どもの世界をうまく映し出しているので、60年たっても子どもの目に古びないのでしょう。

ただそれ以外の点については、さすがにまだ理解が追いついていない感を受けました。登場人物の顔の見分けがついていないようで、しょっちゅう「これだれ??」と言い出しますし、定年退職した男の憂愁や、なかなか進展しない男女関係のもどかしさ可笑しさなどには、もちろんさっぱり気づいていません。「そこまでわかってなくてよく楽しめるな」とも思いますが、それでも面白かった、もう一度見たい見たいと言うのですから、何か子ども特有のツボにはまったのでしょう。

困ったのは、この映画を見て以来、うるさいと叱られて「おくちチャック」を命じられると、黙ってママの顔を見ながら片手の親指と人差し指で丸をつくって「たんま」を要請することです。あまりの可愛さに吹き出してしまって、叱るに叱れません。

半年近く続けた感想とオススメ度

エンドレスの動画漬け生活から、週一の映画館ごっこに転じて、半年近くになりました。映画なんてつまらない!元どおりYouTubeの動画を見せろ!とごねることはなく、土日になるといそいそと「今週のムービータイム始めよ」と言い出します。要するになんでもよかったんだなあと苦笑しつつ、なら尚のこと、YouTube沼から引き離して映画に切り替えてよかったと思います。毎週、次は何の映画を見せようかと頭を悩ませ、まだ早いだろうかと案じながら見せてみて「おもしろかった」と言われると、子どもの心は毎日毎週めざましい勢いで成長しているんだという事実に気づかされます。それを見逃さずに済んでよかったと思うのです。

まだまだ小さいゆえに、いっしょに楽しめる映画はごくわずかですが、この「いっしょに楽しむ」習慣は大事にしていきたいですし、今後あれも見せてみよう、これもいっしょに見ようと、親の方も期待がふくらみます。子どもが動画ばかり見ていて心配だ、やめさせたいけれどきっかけがない、という方、映画館ごっこはいかがでしょうか。大きな液晶画面や広いソファをお持ちだったら、ますます雰囲気がでるでしょう。うちは食べこぼされるのが嫌なので、館内スナックはマシュマロやグミに限っていますが、ポップコーンをわんさか買ってきて仲良く食べながら見るのもよいですね。

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